インタビュー

Vol.11

「初台の家」

マンションの一室を、完全スケルトンにして断熱材も入れ替えた、自然素材のフルリノベーション

座談会に参加した人

  • ■ Hさん御夫婦(施主様)
  • ■ 秋山さん(大地を守る会)
  • ■ 橋垣さん(いろは設計室)
  • ■ 志村(創和建設・代表)
  • ■ 山田さん(創和建設・現場監督)

リノベーションして3か月と聞きました。この部屋に入ってきたとき、すごくいい木の香りたしたんですが、住み心地はいかがですか?

奥様:いわゆる「ケミカルな新築のにおい」は、本当にしませんよね。

旦那様:家の中の空気が、まず全然違います。私はそれほど化学物質に過敏というわけではないのですが、以前に暮らしていた、いわゆる合板やビニール床に囲まれた通常のマンションとは明らかに違う、そのことに感動しました。そうとしか言いようがないのですが、明らかに居心地がいいんです。これが自然素材の部屋の根底にあるものだし、すべてななんだなと実感しました。

リノベーションに「大地」さんが関わったのは、奥様が「大地」の会員さんだったからだそうですね。

奥様:そもそもは引っ越し先を探していたのですが、ある物件を見た時に不動産屋さんから「リノベーションをすれば…」という話しが出て、そういう選択肢もあるのかと。その時に出てきたリノベ案が、壁紙を張り替え設備を変えてという本当に普通の工事だったんですが、イメージが全然違うのに数百万もかかるんです。大地さんが戸建て住宅を手掛けているのを知っていたので、建材などの情報が得られるのではと思い連絡してみたんです。そうしたら「マンションもやります」ということで、無垢でリノベーションしようと決めました。

秋山:当時立ち上げたばかりのマンションリノベーションの企画では、設計会社が物件を探し、我々が自然素材の施工会社をマッチングするものでした。でも星野さんはご自身で熱心に設計士さんを探していらいましたよね。

奥様:ご紹介いただいた設計会社は様々な建材を扱っているところだったので、自然素材に特化している、より詳しい方のほうがいいかなと。ですから物件探しと、施工会社さんのご紹介のみお願いしました。

設計者さんはどのように見つけたんですか?

奥様:インターネットで。橋垣さんの手掛けたマンションリノベ物件の事例を見て、すてきだなと。世代も近く、下の名前が偶然同じで(笑)、何人かお会いした中で一番話を聞いて下さった。それが大きな決め手でしたね。趣味もすごく似ていたと思います。

旦那様:僕としては女性目線がよかった。男性だと、機能美とかディテールとかにこだわるあまり、使い心地をおろそかにしがちですから(笑)。女性はそういう部分でのバランスがいいし、家の中で采配を振るう妻と共通認識を持っていただきやすいんじゃないかなと。

秋山:施主様がお探しになった設計士さんの中には、時には「自然素材」の本質的な部分を理解されていない方もいるのですが、橋垣さんの事務所にお邪魔した時、床に無垢が使われているのを見て。この方ならと。

志村:私もご一緒したのですが、帰りに「橋垣さん、いいですね」とお話したことを覚えています。

設計から一貫して引き受ける施工会社もあると思いますが、設計士さんが入るメリットはどのようなものでしょうか?

秋山:この質問は施主さまからもよく聞かれるのですが、相性のいい設計士さんであれば、施主さまのイメージに近づくことができます。

志村:設計士さんには施工会社にはない自由な発想とプラスアルファのセンスがある。星野さんの物件でも、うちなら提案しないなと思うようなところがいっぱいありますね。創和建設は、設計施工完全分離は普通にやっていることなので、なんら問題ありませんし。

秋山:設計料のコストは上がってしまうのですが、それだけの価値はあると思います。

施工会社さんを創和さんにしたのはなぜでしょう?

秋山:星野さんからお話をいろいろ伺って、「たとえ無垢でも、コテコテした“職人が作った家”というのとはまったく違うイメージなんだな。もう少しスマートな自然な家を望まれている」と感じました。直感的なものもありますが、ならば創和さんがいいのではと。自然住宅の実績もすごく多い施工会社さんですし。

志村:私たちは設計していただいたものを形にする、時には自社設計も手掛けはしますが、そのスタイルでずっと自然住宅を作っています。数で言えば、年間新築30件、リフォーム10数軒程度。設計事務所との付き合いも多く、住宅の裾野も広くとても勉強になっています。

秋山:もちろん図面は橋垣さんが作るのですが、それを受け入れ形にする柔軟性と技術がある前向きな工務店さんでもあります。

橋垣:「無垢でやりましょう」「家具を作りましょう」と言っても、誰でもできるわけではありません。やっぱり作り慣れていて木のことがわかっている、どういう技術が必要で、後々どうなるかが分かっている施工会社さんであることはすごく大切ですね。創和さんは自然素材が専門で、こちらが考えたことを当たり前に形にすることができるので、いろんなことがスムーズでした。

山田:自然素材の家を作る時、実は図面に書かれているものをそのまま形にするのは、すごく手間がかかるんです。素材が“自然”なだけに、様々なばらつきがあるので。ですから図面にある程度の“遊び”があるとやりやすいのですが、橋垣さんの図面はすごく緻密に描かれていて“遊び”がほとんどなかった。合わせてゆくのは正直、すごく大変でした(笑)。

橋垣:こちらは優秀な現場監督さんのおかげで、すごくやりやすかったです(笑)。設計サイドの意図を上手に職人さんに伝えていただいたと思います。

志村:最近は大工さんが頭で、現場監督を置かない施工会社もとても多いんです。でも職人さんが相手だと、設計士さんが伝えにくいことって正直あるんですよね。

秋山:設計士の方、施工会社さん、施主さま、それぞれに考え方や思いがありますが、それを「ここを曲げて、ここを曲げて」とやっていくと、絶対にいいものにはなってゆきません。ですから世界観を共有し実現できる方たちをうまくマッチングするのが、私たちの仕事かなと思います。

設計段階でのお話を聞かせてください。どういった部分にこだわりましたか?

旦那様:この部屋は結露がひどかったので、一番は風通し。でも橋垣さんは、その点については「当たり前」という感覚でいらっしゃる人でしたね。

奥様:「自分が全部考えて指示しなきゃいけないのかも」と思うと辛くなってしまいますよね。でも橋垣さんならある程度要望を伝えたら、的確なものが返ってくることが想像できたので、細かい部分の作りこみはお任せで。

橋垣:設計が楽しかったです。ある程度はお任せいただき、お互いにアイディアを出しながらワーッ!と盛り上がりってやった感じです。

奥様:そんな中でも、なかなか決まらなったのはキッチンですね。一般的なメーカーのショールームに何度も通い、カウンターの高さや幅を何度もメジャーで測って、あと10cm、いやいや、あと5cm、という感じで、最後の最後まで。

橋垣:洗面所もトイレも基本的に既製品を使っていません。ですから自由が利くのですが、逆に決めるのはなかなか難しい。たいていの施主さんは「このくらいでどうですか?」と提案すると「じゃあそのくらいで」という感じですが、星野さんは「これを入れるから、ここは何cm」と、きっちりしていらっしゃいましたね。せっかくのフルオーダーだから、できるだけ細かく、「あと1cmあればこれが入ったのに」というのがないように。

奥様:でも電子レンジの下を開けてもらうなど、自由度も残してもらいました。全部決めすぎてしまうと、生活や趣味が変わった時に対応できないので、決めるところと、遊びを持たせるところと。

自然素材を使うという点では、何か気を付けたことはありますか?

奥様:“山小屋”になってしまうのはイヤです、と(笑)

橋垣:そうなんですよね。無垢って節もあるし色の違いもあって、合板のようにツルっとしていないので、無垢、無垢、無垢となるとドーンとした重量感のようなものが出る。山小屋のような、すごく重い空間になってしまうんです。

志村:マンションの部屋に「抜け感」を作ろうとすると、壁をとっぱらってがらんどうにするパターンが多いんですよね。でもこの部屋は、建具も家具も梁も仕切りも結構あるのに、「抜け感」が感じられます。玄関とリビングを仕切る格子戸なんかも、ちょっとマンションとは思えない雰囲気を作っていますよね。

橋垣:エアコンを使うとすると、あそこには扉が欲しい。じゃあどうしたら「抜け感」が作れるか考えて、自然と格子戸になりました。

奥様:マンションリノベは最初から箱が決まっているし、特にここは壁も梁も多く、そういう中で様々な工夫をしていただけたのが本当に良かったです。

設計が仕上がり、予算的なものはどうだったでしょうか?

旦那様:最初にいただいた見積もりを見て、“クラッ”とめまいが来ました(笑)。要望を一番いい形で実現する感じでしたから、「さあ、どこをどう削ろうか」と。結果的には3割くらいの減額になったと思います。

橋垣:オール自然素材でフルスペックのプランには、たいていの施主さんはビックリされます(笑)。でも扉の材質、栗と杉では倍くらい値段が違いますから、それを変えるだけで何十万という単位で減らすことができますから。

奥様:最初は壁と天井の全部が左官だったのですが、天井は和紙に。面積が広いところを考え直すと削減しやすいかもしれません。

橋垣:寝室の入り口も、もとは扉だったんですがカーテンに。結果的には、そのほうが風通しもよく、閉塞感のない軽やかな感じになりましたね。

奥様:あとはトイレがタンクレスからタンク有りに。そういう減額案のアドバイスも、設計士さんと施工会社さんが出して下さいます。

橋垣:こういうことをあんまり言ってしまったらよくないのかもしれませんが、照明器具などをインターネットで買って用意されるとお安くなりますよね。あと星野さんのお宅もそうですが、床の塗装をご自身でやると塗料代だけになります。

奥様:床の塗装を家族でやったのは楽しかったですね。子供たちが大活躍でした。

志村:珪藻土や漆喰の壁ならば、3人に一人くらいはやる方いますよね。でもこのシラス壁(薩摩霧島壁)は難しい。ただそんなに上手じゃなくてもそれなりの味にはなるんですよ(笑)。ちゃんとした設計士さんが描いた空間と、使われているこの自然素材、それぞれにチカラがあるから。ビニールクロスを張るよりはずっといいです。

こちらで使われている素材は“大地仕様”と伺いましたが、どんな部分に違いがあるのかを教えてください。

秋山:一番わかりやすいのは合板を使うか使わないか。うちの場合は使わないですませられる場所には極力使いません。ただ、マンションリノベの場合は使わざるを得ないこともありますが、その場合はちゃんと施主様にご説明し理解していただいたうえで。
接着剤に関しても基本的にはボンドは使いません。例えば床などは、でんぷん糊で貼るとボンドでは起こらない「床鳴り」は避けられません。でもボンドだといわゆる「新築のにおい」がしてしまう。その点は逐一ご説明し、ご理解いただいた上で進めてゆきます。もちろんこうした部分は、私たちだけでなく、施工会社さんや現場監督さん、職人さんたちにご理解いただかないと徹底できません。

志村:弊社の場合は、普段からそういうスタンスで仕事をしている職人さんが多いので、床だけでなく建具なども膠や米糊で接着してたり、万が一子供が舐めても大丈夫ですよ。ただ、それは施主様が決めることかと。床が鳴ることを嫌う施主様も少なくないですから。ここは、膠で張りましたがいっさい鳴っていません、今のところは(笑)。

作っている最中にも、星野さんからいろいろなご相談があったようですね。

奥様:本当はリビングにハンモックを吊りたかったんです。無理と言われたのはその一点だけ。たぶんやったら壁がボロボロと落ちてきたんだろうなと。実はまだ諦めていないんですが(笑)。

山田:真剣に考えたんですが(笑)、構造的にどうしても無理でした。できることとできないことをはっきり言うっていうのも、現場監督の大事な仕事ですから。

奥様:でもちゃんと説明してくださったので、納得して前に進めました。

秋山:現場では細かい仕様の変更なども質問させていただいたのですが、ひとつひとつ丁寧に対処していただきました。

奥様:キッチンの吊り下げ収納用のバーも、最後の最後で「低くしたい」と言って対応していただきました。できることは最大限やってくれる、だから「無理」という言葉にも納得できました。まあずいぶん食い下がりはしましたけれど(笑)。

今後、リノベーションする方に伝えたいことはありますか?

奥様:リノベーションって、例えば妥協して妥協していくらか減額できたとしても、それなりのお金はやっぱりかかってしまいますよね。それならば「楽しい」と思える方向で、できる範囲内で前向きに決断してゆくのが一番。出会いから、計画、施工、完成まで、すべてが楽しかったのは、うちがそれを意識しながらやっていたからかなと思います。もちろん「ここはお金かけちゃったかな」という部分もありますが、結果的には「やってよかった」と思えるものばかり。「やっぱりやればよかった」と後悔しながら暮らすよりは――まあお金はこれから一生懸命働けばいいんだし。

自然素材は掃除やお手入れに手間がかかるとも言いますが、心配はしていませんか?

奥様:いろいろと手間はかかるかもしれませんね。それこそちょっと物を落とすと床がへこむとか。小さなへこみは、濡れティシュを置いておいたり、スチームアイロンをかけたりすると、ふわっと戻ってくるんですよ(笑)。私は結構そういうのも楽しんでいます。お掃除は今のところ「ルンバ任せ」なんですが(笑)、たまにオイルを塗ってあげるといいと言われるので、そのうちにやろうかなと。そういう手間の面倒さより、この居心地の良さ方が手に入ったことの方が、ずっと価値があると思います。

旦那様:ちょっとずつ面倒を見ながら、10年20年となじんでいくのが楽しみですね。たとえ傷がついても、それが味になってゆくと思います。実は長男の部屋が僕のお気に入りで、大人になって出て行ったらもらいたいなと、今から考えているんですよ(笑)。

奥様:一緒に歳を重ねていく家――そんな感じがしますね。そういう喜びを選んでくれる人が増えるといいなと思います。

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